第五話「冷たっ! 熱っ! 冷たっ! 熱っ!」| 続・熱電おもしろ話

熱電素子の大きな特徴のひとつが、電流の方向を変えるだけで簡単に冷却と加熱を切り替えられることです。この特徴を利用したものに皮膚の温度感覚を検査する温覚計があります。皮膚には触覚、圧覚、痛覚、温覚、冷覚の5つの感覚があるといわれていますが、振動障害や糖尿病により末梢神経に障害が起こると、これらの感覚に感覚消失、感覚鈍磨などの障害が起こると言われています。

写真1 ペンシル型の簡易温覚器

このなかの温度の感覚障害を調べるための簡易法として、試験管に氷またはお湯を入れて患者の皮膚に触れて検査する方法がとられていました。
しかし、氷やお湯を用意しなければならず温度も毎回同じにすることが難しい欠点がありました。そこで写真1で見るようなペルチェを利用したペンシル型の簡易温覚器が開発されました。

写真2 ペンシル型の簡易温覚器の熱電モジュール部分

この温覚器(写真2)では、皮膚に接触させる金属端子に熱電モジュールが半田付けされており、このモジュールに電池から直流電流を供給し、その方向と大きさを中間部のスウィッチで切り替えることにより、金属端子の温度を0℃、10℃、50℃、60℃の4種類に変えられるようになっています。熱電モジュールの大きさを□5mmまで小さくできたことにより、ペンシル型が可能になりました。

また、同じように冷却と加熱の切り替え容易性に目をつけて開発したものに、電子美顔器や電子冷温灸器があります。電子美顔器は、温冷浴を局所的に顔部に応用しようと試みたものです。

写真3 電子美顔器
(左)赤い部分を小鼻の脇にあて、温めて老廃物を出す。
(右)開かせた毛穴を冷たくなった青い部分で収縮させる。

温冷浴とは、水浴と温浴を交互に繰り返すことで血液循環を促進、新陳代謝を活発にして、むくみや肩こり、冷えなどの症状を改善するものです。 同じ理屈で電子美顔器も顔のむくみをとり、皮膚のはりを取り戻す効果が得られそうだということで開発されたものです(写真3)。しかし、販売にこぎつけるまでにはいたりませんでした。

電子美顔器は面で冷却、加熱を繰り返すものでしたが、これを点に絞り込んだのが電子冷温灸器です。高温で刺激を与えるとともに、低温でも刺激を与えられれば効果は倍増すると期待したものです。

写真4 電子冷温灸器の試作図面

写真4のような、試作図面までは作りましたが試作前に中止になりました。低温での刺激が健康上どのような効果があるのかはっきりすれば、また復活の可能性もあるのでは...。