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熱電おもしろ話
第三話「焚火から始まった?──熱電発電の実用化」
 今回は黎明期の熱電発電と比較的最近の熱電発電を比べてみました。
 1821年のゼーベック効果の発見から1834年のペルチエ効果の発見まで、13年間のギャップがあります。このためでしょうか、熱電応用の黎明期には、発電装置への応用が、圧倒的に多いようです。 実用的な発電装置は、有名なヨッフェ:A.I.Ioffe(半導体熱電材料が高い性能を持つことを理論的に説明したロシア人の物理学者で、これを解説した著書「半導体熱電冷却」は熱電半導体の聖書と言われています。)の1929年の発表以後、主として旧ソ連で実用化が進められました。
 ヨッフェの考えた半導体材料でも、発電の理論効率はわずか2から4%ですが、それまでの金属を使った場合の効率は0.1%未満でしたから、この理論は画期的でした。
 図1.を見てください。奇妙な形をした鍋で何かを料理している焚火の脇にあるのは無線通信装置です。鍋の底には亜鉛・アンチモン(ZnSb化合物半導体)とコンスタンタン(CuNi合金)が組み合わされた熱電素子が入っています。これは「パルチザンの飯盒(はんごう)」と呼ばれ、旧ソ連で1940年頃、第2次世界大戦(独ソ戦争)で使われていたものです。現代では飯盒を知らない人も多いかと思いますが、山野でのキャンプで使う携帯用の鍋です。もっとも、図の飯盒は普通の飯盒とくらべると家庭用鍋に近い形です。鍋の底の、焚火であぶられる部分の温度は数百℃で、鍋の中身は100℃前後でしょうから、温度差は少なくとも200℃程度はあったのではないでしょうか。熱電発電というと大げさですが焚火発電と言えばぴったりですね。いずれにしても、これが実用的熱電発電の嚆矢と言えるのでは?。
図1
図1.パルチザンの飯盒:焚火による熱電発電(ZnSbとコンスタンタンの組み合わせ)
 図2は家庭で使う石油ランプですが、らんぷの燃焼排ガスが出て行く上部に、ZnSbとコンスタンタンからなる熱電素子を組み込んだ排ガス菅(図の右側)が取り付けてあります。この排ガス菅には大きな冷却フィンが取り付けられ、これによって熱電素子に温度差を与えて発電しているわけです。余談ですが、筆者は、このランプの実物がイタリアのミラノのレオナルド・ダ・ヴィンチ博物館に陳列されてあるのを見たことがあります。当時ソビエト連邦では、国内資源を有効に活用するためとして、1940年代の第一次5ヵ年計画の中に熱電発電が取り入れられていたため、薪やガソリン、灯油などの燃焼熱を利用した200〜500Wの発電機も北部の寒冷地用電源として実用されていました。ソ連は、まさに熱電発電の先進国だったわけです。
図2-1
図2-2
図2.灯油ランプを利用した熱電発電装置
 ソ連における熱電発電機の実用化から、およそ30年後の1970年代になって、米国では、ようやく図3のような熱電発電機が、陸軍で使用する充電器として実用化されました。この発電機は、ガソリン、ジェット燃料、デイーゼル油のいずれも使用でき、発電効率は約3%です。前述した「焚火発電機」の効率はこの発電機よりずっと低かったはずです。図3の発電機の構造を見ると、燃料噴霧器、送風機、バーナーマントルなどが燃料を効率良く燃焼させ、熱電素子に効率良く熱を伝える工夫がされ、比較的高い効率を得ています。この熱電発電機は、当然のことながら、騒音レベルがガソリンエンジン発電機の1/5で、1500時間メンテナンスフリーであるという特長がありました。でも、うまく機能すれば、ゲリラ戦には「焚火発電機」の方が向いていそうですね。これを改良して、キャンプ用の現代版焚火発電機を考えてみるのもおもしろいのでは?
図3-1
図3-2
図3.液体燃料を熱源とする500W携帯用発電機(鉛・テルル(PbTe)熱電素子)
 図4.は1990年頃、KELKで製造された鉄・珪素(FeSi2)系熱電素子を使って製品化された「ローソクラジオ」です。まぎれもなく熱電発電の応用なのですが、なんとも言えない、のどかな作品です。前述のランプ発電機と比べると、時代や周辺技術の相違による「必然性の違い」が良く分かります。つまり図4は、製品としては、ほとんど趣味の領域ですが、当時、関東大震災に匹敵するであろう東海大地震にそなえた体制の一環として、東京都などの地方自治体が試験的に購入したそうです。ラジオが聞こえるかどうか筆者も試してみましたが、ビルの中なら窓際に行けばNHKならかなり良く聞こえました。しかしコーヒーが沸かせるかどうかは試していません。
図4
図4.ローソク ラジオ
注:(注:内容の多くの部分を上村欣一・西田勲夫の「熱電半導体とその応用,日刊工業1988」から引用しました。また、図1.図2.は上村欣一氏の提供です。)

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